海外におけるペイウォールの最新動向についての分析記事が、8月15日付の「What’s new in publishing」に掲載された。印刷物や広告収入の価値が下がり続ける中、コンテンツを収益化するための方法としてペイウォールやサブスクリプション戦略の人気が高まっている。
同記事では2022年にペイウォールを採用しているメディアの優れた事例を取り上げ、使用されたペイウォール戦略の種類と成功要因を分析している。ペイウォールを4つのタイプに分類しているが、ハイブリッドな例も多く出てきているという。なお、ペイウォールの仕組みについては以前、当メディアでも解説している。
ハードペイウォール
ユーザーが購読料を支払わない限り、すべてのコンテンツが完全に遮断される。「最も強靭な(tough)ペイウォール戦略」だと同レポートは位置づけている。
Financial Times
『Financial Times』は、イギリスで発行されている経済紙である。
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ハードペイウォール戦略のおかげで視認率が高く、同紙が取り扱うニッチなトピックのフォーカスには効果的
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コンバージョンファネルのステップを減らすために、定期購読の案内をウォール自体に掲載
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明確な価格提案
The Economist
『The Economist』は、ロンドンに所在するエコノミスト・グループから発行されているイギリスの週刊新聞である。
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ユーザーは自由にコンテンツ全体を閲覧できるが、最初にアクセスした記事の数段落でブロックされる
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購読のメリットが明確で、ユーザーがいつでも購読を中止できることを強調し、NewsGuardマークを入れることで信頼を構築している
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最初の2段落をブロックしないことで、コンテンツがユーザーの目に留まりやすくしている
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ウォールを見るためにページをスクロールする必要があるため、ペイウォールの視認率が低い
メーター制ペイウォール
最初の2記事は無料だが3つ目の記事は有料、というように、ユーザーが限られた数の記事にアクセスできるようにしたものを指す。
Harvard Business Review
『Harvard Business Review』は、1922年にハーバード・ビジネス・スクールの機関誌として創刊されたアメリカ合衆国の経営学誌である。
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メーター制ペイウォールのバナーで残り記事数を知らせることで、ウォールに対するフラストレーションを軽減、うまく連動して購読傾向を高めている
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アカウント作成で、ファーストパーティーデータと読者IDを取得
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ペイウォールは登録ユーザーの名前でパーソナライズされており、価値提案(無制限アクセスのための会員登録)の説明が明確
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メーター制ペイウォールは毎月リセットされる
The Sydney Morning Herald
『The Sydney Morning Herald』は、1831年に創刊した、豪フェアファックス・メディアの日刊紙。南半球で最古の新聞でもある。
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アカウント作成前に5本の記事を提供、月に2本アクセスできる段階を経て、その後有料化される
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無料で読める記事が多い(5本)ので、コンテンツがユーザーの目に留まりやすい
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1、2本の記事を読みたいだけのユーザーに不満を持たせない。「トラフィックを維持したいニュース系バブリッシャーにおすすめ」と同レポート
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バナーでサブスク戦略を知らせることで、ユーザーのフラストレーションを軽減
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ペイウォールがユーザーに表示された際の視認率が高い
フリーミアム型ペイウォール
コンテンツを無料とプレミアムに分け、無料コンテンツは全ユーザーがアクセスできる一方、プレミアムコンテンツは購読者のみに提供。
ELLE
『ELLE』は世界45の国と地域で刊行されている女性誌。
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コンテンツの価値を強調しながら、コンセプトの実証を行うことができる
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パブリッシャーからの価値提案と購読のメリットを、太字のCTAボタンでペイウォールに明確に表示
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常に改善・更新されるウォールにより、コンバージョン率を向上。季節やセール、祝日に基づき定期的にウォールを変更している
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非購読者でも大部分の記事にアクセスできるが、ペイウォールの視認性はハードペイウォール採用社より低くなる可能性がある
ダイナミックペイウォール
エンゲージメントのレベル、場所、使用デバイスなど、ユーザーの状況やプロファイルに基づいて適応する。このため同レポートでは「ほぼ間違いなく最も効果的なペイウォール」と言及。アカウント作成やニュースレター購読など、ペイウォールの前に他のウォールを設けてエンゲージメントを高めることもある。
The New York Times
『The New York Times』はアメリカ合衆国ニューヨーク州ニューヨーク市に本社を置くニューヨーク・タイムズ・カンパニーが発行する日刊新聞紙である。
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最初に「登録」のウォールで無料のアカウント作成を求める。ユーザーのメールアドレスを収集し、ニュースレターへの登録を促し、エンゲージメントを高めることが目的
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スクロールできない「スティッキー」な仕様のため、ペイウォールの視認率が高くなる
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無料アカウントでは1つしか読めない。
このほか、「Best Paywalls from VOD Websites」として、NetflixやDisney Plus、Apple TV+(いずれもハードペイウォール)などが挙がった。「Best Paywalls from Elerning Platforms」にはRosetta StoneやMasterClass(いずれもハードウォール)がノミネートしている。
同記事の元になった「Best Paywall Example of 2022」と題されたリポートは、フランスのソフトウエア開発企業Poool社が手がけている。
同記事の詳細はこちら(英語)。リポートはPoool社のウェブサイトからダウンロードできる(英語・フランス語)。