英オックスフォード大ロイタージャーナリズム研究所が1月10日、2023年のメディアのトレンドと予測を発表。「Journalism, media, and technology trends and predictions 2023」と題されたレポートによると、広告収入が圧迫される中、出版社はデジタル定期購読、メンバーシップ、寄付の継続的な成長に期待していることがわかった。
8割が主な収入源を「サブスクやメンバーシップ」と回答
世界53の国と地域でパブリッシャーの編集長やCEOを対象にした調査によると、回答者の80%は定期購読(サブスクリプション)とメンバーシップが、2023年の主要な収益の原動力になると考えている。これはディスプレイ広告 (75%) とネイティブ広告 (58%) を上回る。
Most important revenue streams for publishers in 2023
既存購読者の維持に重点をおくため、プレミアムな価値を付帯させる
2023年は、新規購読者を増やすよりも、既存購読者の維持に重点を置く傾向が出ているという。以前からサブスク事業を展開している出版社は安定した基盤を構築しており、購読割引の提供のほか、ニュースレターや雑誌といったよりプレミアムな価値をバンドルすることで、ある程度の成長を維持できると見込んでいる。また、ヨーロッパの出版社で見られるお試し購読期間を長くする戦術は、短期的には収入を減少させても、長期的に見ればロイヤルティの向上につながると考えられている。
パブリッシャーの約3分の2(68%)はデジタル定期購読、メンバーシップ、寄付による収入が増加すると期待している。「消費者は厳しい時代だからこそ、質の高い情報源を求めている」(グローバルビジネスパブリッシャー)と考えており、2023年は以下の動きがさらに加速すると予測する。
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ゲーム、料理、書籍、ポッドキャスト、ニュースレターなどのプレミアム商品の開発
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すでにニッチで成功している他の購読制出版社の買収
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既存のブランドをより補完的なポートフォリオにする
米The New York Timesは、主要なニュースと、料理アプリやゲーム、レビューサービス(Wirecutter)を組み合わせたパッケージを提供。また、最近買収した米The Athleticのスポーツ報道を組み合わせたオプションも用意している。同紙は購読料収入が10%以上増加したが、「FIPPが公表した情報によると、購読者数の伸びはピークに達している可能性がある」と同レポートは指摘する。
FacebookやTwitterに見切り、TikTokなど動画へシフトチェンジ
2023年はプラットフォームの移行期にあり、パブリッシャーもFacebookからの移行を加速させる計画を立てていることが以下のグラフからも読み取れる。一方、TikTokに注力すると答えた人の割合は19ポイント上昇。「収益化、データの安全性、中国による所有の幅広い影響に関する懸念にもかかわらず、25歳以下の若者と関わりたい、縦型ビデオストーリーテリングを試してみたいという願望を反映している」と同レポートは分析する。
Publishers will be putting more effort into TikTok and less into Facebook and Twitter
7割以上がポッドキャストとオーディオに注力
2023年に投資するポイントについて聞いたところ、最も多かったのは「ポッドキャストとオーディオ(72%)」。続いて「ニュースレター(69%)」、「動画(67%)」という結果だった。「メタバース」に投資すると答えたのはわずか4%で、この分野におけるジャーナリズムの可能性に対する懐疑的な見方が強まっている。
Where publishers will be putting more resource this year
AIの活用も焦点に、今後数年間で自動化されたメディアが爆発的に増えると予想
同レポートではChatGPTをはじめ、MidJourneyやDALL-E2といったAIツールについても言及。「今後数年間で、よかれ悪しかれ、自動化された、あるいは半自動化されたメディアが爆発的に増えることになる」と予測する。レコメンデーションに関しては、回答者の約4分の1(23%)が現在AIを定期的に使用しており、このようなAIドリブンなツールは、見出しの最適化や、最適な投稿時間などのソーシャル配信タスクの管理にも使用されていると述べている。
Most publishers are experimenting with artificial intelligence for recommendations
スタートアップ企業のThe Newsroom(ベータ版)は、AIを使ってその日のトップニュースを自動的に識別して要約を書き、背景となる文脈を要約し、政治的観点によって分類された関連記事へのリンクを提供する。すべての原稿はジャーナリストによってチェックされ、必要に応じて修正されているという。
大手クオリティニュース会社のある回答者は「このような状況では、人間のキュレーションがより重要な差別化要因になる」と主張。同レポートでは、「より多くのパブリッシャーが写真の改良や操作から透明性、著作権に至るまで、重要な分野を網羅する倫理的ガイドラインを発表することを期待している」と述べている。
2023年中に老舗新聞社がオンライン専用モデルに移行するケースがさらに増える
「その他、2023年に可能性のある展開(Other possible developments in 2023?)」として、以下が挙げられている。
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印刷コストの上昇と流通網の弱体化により、2023年中に日刊紙の印刷を中止する新聞社や老舗の新聞社がオンライン専用モデルに移行するケースがさらに増える
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TVや報道は、視聴者のニュース疲れやストリーミングとの競争によりジャーナリストの解雇が進む
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ソーシャル・ネットワークにおいて、持続可能な収益を得るため、動画がより長くなる
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共同体(collectives)やマイクロカンパニーの台頭
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メタバースの構成要素であるスマートグラスとVRヘッドセットが引き続き注目を集める
同レポートの調査は、2022年11月から12月にかけて、欧米を中心に日本を含む全世界から53の国と地域のパブリッシャーの編集長やCEOなど303人を対象に実施、回答者は過半数が出版メディアのバックグラウンドを持つ。
「Journalism, media, and technology trends and predictions 2023」はこちらから閲覧できる(英語)。