世界で見ると日本のメディアはTikTok参入が遅れている

世界のメディアのTikTok戦略とは? ロイター研究所が分析・公開

メディアビジネス編集部

英オックスフォード大ロイタージャーナリズム研究所が128日、メディアとTikTokに関するレポートを公開。初期に参入した老舗メディアや新興ソーシャルネイティブ・メディアのケーススタディを取り上げ、各社のユーザーを引き付けるためのさまざまな戦略を探っている。

収益よりも若い世代との関係構築や新形式への実験に重点、フェイクニュースへの対抗も

How Publishers are Learning to Create and Distribute News on TikTok」と題された同レポートでは、各メディアが TikTokに移行している主な理由として、TikTokで過ごす時間が増えている若い視聴者を引き付けたいことを挙げる。

ただし従来の報道機関や出版社のほとんどは、現段階ではTikTok から収益を上げることに重点を置いておらず、若い世代との関係を構築し、新しい縦型動画フォーマットを実験する機会と見なしている。また、「信頼できるニュースで誤った情報に対抗したい」という願望も動機のひとつだという。

英仏メディアの8割以上が定期的にコンテンツを公開

同研究所が出した「Digital News Report 2022」によると、日本を含む44の市場の上位ニュース・パブリッシャーの約半数 (49%) が定期的にTikTokでコンテンツを公開している。その大部分が参加したのは2021年からだが、採用社は均等に広がっているわけではない。オーストラリア (89%)やスペイン(86%)、フランス(86%)、英国(81%)では8割以上のメディアがTikTokを活用しているが、日本は31%と移行が遅れている地域にカテゴライズされている。

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TikTokでニュースを発信する2つのアプローチ法

同レポートではTikTokのニュース・コンテンツに対する2つの主要なアプローチとして以下を挙げている。

クリエイター・ファースト戦略

多くの場合、プラットフォームにネイティブな若いスペシャリストのチームが制作に関与する。ストーリーが主役。

The Washington Post(米)

気軽なビデオを通じて深刻なテーマのニュースを定期的に伝えている。TikTok 戦略のリーダーであるデイブ・ジョーゲンセン(Dave Jorgenson)氏は、「コメディ要素はTikTok DNAの一部」と述べている。

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LA Times (米)

主にTikTokInstagram向けの実験的なコンテンツを作成するチーム「404」には、アーティストや映画製作者、漫画家、ジャーナリスト、さらに操り人形師がいる。皮肉や毒舌を多用して難しいテーマに取り組むアプローチは、特に Z 世代の聴衆に自然にアピールできると主張する。

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Ac2ality(スペイン)

2020年にローンチされたソーシャルネイティブ・メディアの特色は「今日知っておくべき5つの重要事項」を1分にまとめた動画で、「一部のトピックにはミームやジョークを追加し、口語的で見ていて楽しいものにした」という。今では、スペイン語で1日約6本のビデオストーリーを約390万人のフォロワーに公開、英語版も展開している。

Le Mondex (仏)

老舗の高級日刊紙だが、2020年夏にTikTokを始めた。購読者層よりはるかに若い視聴者向けに調整するため、チームは24歳から32 歳で構成される。比喩や絵、フェイクビデオ・ゲーム、演技など、さまざまなクリエイティブ・テクニックを駆使して作られており、生放送の実験も行っている。

ニュースルーム主導

ニュースルーム全体を運営の中心に置くアプローチで、TikTokは配信用の1つの追加チャネルだと捉える戦略。すでに確立された多くのニュース・プロバイダー、特に既存のビデオアセットとスキルを持つニュース・プロバイダーや放送局が採用している。

Sky News(英)

ロンドンを拠点とする放送局。TikTokは信頼できるニュースを提供できる別のプラットフォームだと考えており、TikTokコンテンツ戦略は、「目撃者の報告とジャーナリズムへのアクセス」「ニュース速報の最初の瞬間」「説明者」「生放送」の4つの柱に基づいて構築されている。

The Economist(米)

量よりも質に重点を置き、ブランドを損なうことなく「TikTok-y」なトピックに取り組む戦略をとっており、「私たちのミッションは地政学と経済学を説明することであり、これは若い聴衆の関心とうまく調和している」と主張する。20227月の開始以来、投稿された動画は50本未満だが、再生回数は2,000万回を超える。

同レポートでは、TikTokの転換点をCovid-19のロックダウンと推定。さらに、若いウクライナ人が砲撃下での生活の目撃談をリアルタイムで共有したり、一部のニュース・プロバイダーが初めてプラットフォームに参加したりした、ロシアのウクライナ侵攻が、ニュースに対するTikTokの評判をさらに高めたと分析している。

同レポートはこちらからダウンロードできる(英語)。

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出版社や新聞社などのメディア事業者、製造業や小売業などのオウンドメディアを運営する企業向けに、総合コンサルティングサービス「MediaDX」の提供、システム構築、メディア運用など、事業立案からグロース・多角化戦略まで幅広く支援している。
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